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  • 風邪に対する鍼灸治療

コロナ対策の鍼灸治療が発表された

 
 
 
中国では、2020年2月頃に、国家中医薬管理局が《新型冠状病毒肺炎诊疗方案》と《新型冠状病毒肺炎恢复期中医康复指导建议》を、中国針灸学会が《新型冠状病毒肺炎针灸干预的指导意见》を発表し、針灸治療によるコロナウイルス感染予防策を提言している。 

 
無感染者や感染後の回復期にある患者においては、針灸で体調を整え、免疫力を高め、ウイルスに感染しにくい体を作っておくことが必要である、と国を挙げて説いていたようだ。
 
基本的にこの治療は、特にコロナウイルスのために新たに作られた治療法ではなく、風邪症候群やインフルエンザなど、呼吸器疾患に対する治療を応用した治療法のようだ。
 
それゆえ、中医は、“经脉内联脏腑、外络支节”の過程に則り、各ツボを刺激することで、臓腑に至る気や血流、自律神経などを整え、たとえコロナウイルスに感染したとしても、ウイルスの臓器に対する攻撃を最小限にとどめられるように、最大限の備えをしておくべきだ、と紙面上で主張している。
 
新型冠状病毒肺炎针灸干预的指导意见》では、患者の病態に合わせた刺鍼法を公開しているから、ここに抜粋・翻訳(一部改変)して、日本の鍼灸師に役立ててもらいたいと思う。
 
ちなみに、中国の中医院では、コロナウイルス対策として、刺鍼以外に施灸も行われていたようだ。特に、沉香、穿山甲、干姜、茵陈、木香、羌活、乳香、麝香などの生薬を配合した、血流改善や消炎作用が高いとされる“雷火灸”を、大椎や定喘付近へ行う方法が見られた。
 
確かに、灸は空気を浄化すると主張する中医もいるが、実際には灸の煙が呼吸器に与えるリスクが少なくないため、施灸に関しては慎重に考えなければならないだろう。
 
  

新型冠状病毒肺炎针灸干预的指导意见(第二版)》より抜粋


*穴位名は中国語に準拠しています。
(一)医学観察期(感染が確定していない患者)の場合 
治療の目標:体の抵抗力と肺脾の機能を高め、邪気を除き、臓器の防御能力を増強させる。 
主穴(主に使う経穴):(1)風門、肺俞、脾俞 (2)合谷、曲池、尺沢、魚際 (3)気海、足三里、三陰交  
*施術ごとに(1)~(3)の経穴から1~2穴選ぶ。 
主穴に加える経穴:発熱、喉の渇き、空咳がある場合は大椎、天突、孔最を加える。悪心嘔吐、軟便、脈が細く浮いている、舌苔が黄色く歯痕がある場合は中脘、天枢、豊隆を加える。無力感、倦怠感、食欲不振がある場合は中脘、脐周四穴(へその上下左右1寸)、脾俞を加える。サラサラの鼻水、肩背がだる痛い、舌の色が淡紅、脈が遅い場合は天柱、風門、大椎を加える。  
 
(二)臨床治療期(感染が確定した患者)の場合 
治療の目標:肺脾の正気を高め、臓器を保護し、損傷を減らす。邪気を除き、脾を養って肺を潤し、病の勢いを断ち切り、感情を落ち着かせ、病魔に打ち勝つ自信を強める。 
主穴(主に使う経穴):(1)合谷、太衝、天突、尺沢、孔最、足三里、三陰交 (2)大杼、風門、肺俞、心俞、膈俞 (3)中府、膻中または気海、関元、中脘  
*軽症および中等症の場合は、施術ごとに(1)または(2)から2~3穴選ぶ。重症の場合は(3)から2~3穴選ぶ。 
主穴に加える経穴:発熱が収まらない場合は、大椎、曲池を加えるか、十宣、耳尖から刺絡する。胸苦しさがある場合は内関、列缺または巨闕、期門、照海を加える。咳、痰がある場合は列缺、豊隆、定喘を加える。下痢、軟便がある場合は天枢、上巨虚を加える。痰が黄色く粘りがあり、便秘がある場合は天突、支溝、天枢、豊隆を加える。微熱または火照りを感じる、または熱がない、悪心嘔吐、軟便、舌が淡紅、舌苔が白く歯痕がある場合は肺俞、天枢、腹結、内関を加える。  
 
(三)回復期の場合 
治療の目標:体内に残る邪気を一掃し、気力を取り戻して臓器の修復を促し、肺脾の機能を回復させる。 
主穴(主に使う経穴):内関、足三里、中脘、天枢、気海 
1.肺脾気虚の場合:息切れ、倦怠感、無力感、食欲不振、悪心嘔吐、膨満感、便が出にくい、軟便でスッキリしない、舌苔が厚く歯痕がある。胸苦しさ、息切れなど呼吸器系症状が明らかな者には膻中、肺俞、中府を加える。消化不良、下痢など脾胃症状が明らかな者には上脘、陰陵泉を加える。 
2.気陰両虚の場合:無力感、口の渇き、喉の渇き、動悸、多汗、食欲不振、微熱か平熱、空咳で少痰、舌の渇き、脈が細いか無力。無力感、息切れが明らかな者には膻中、神闕を加える。口の渇き、喉の渇きが明らかな者には太溪、陽池を加える。動悸が明らかな者には心俞、厥陰俞を加える。多汗がある者には合谷、復溜、足三里を加える。不眠がある者には神門、印堂、安眠、涌泉を加える。 
3.肺脾不足、痰瘀阻络(血行不良)の場合:胸苦しさ、息切れ、発話困難、疲労困憊、無力感、動くと多汗、咳で痰あり、痰が出にくい、皮膚の乾燥、無気力感、食欲不振などには肺俞、脾俞、心俞、膈俞、腎俞、中府、膻中を加える。痰が出にくい者には豊隆、定喘を加える。  
 
刺鍼方法について:患者の基礎疾患や年齢、病態、その他の環境や状況に応じて、刺鍼方法を選択すること。鍼灸が適さない場合は施術しないこと。刺鍼法は平補平瀉(早からず遅からず刺入し、手技は荒くせず、得気のち留針すること)を基本とし、毎穴20~30分留針すること。毎日1回治療すると良い。具体的な刺鍼操作については、中国国家標準化管理委員会が公布した《针灸技术操作规范》を参照し、臨床経験に基づいて実践すること。