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偏頭痛とドッペルゲンガー

 
以前、某テレビ番組で偏頭痛とドッペルゲンガーについての科学的な研究結果が公開されたことがありました。1996年、スイスのチューリッヒでドッペルゲンガーに悩まされている陶芸家がいた、という話です。ドッペルゲンガーとはいわゆる自己像幻視で、不意に自分と瓜二つな人物を目の当たりにする現象のことです。昔はドッペルゲンガーに遭遇すると死ぬ、などと騒がれていましたが、以下の内容を鑑みればその意味を医学的に説明出来るのではないかと思います。ま、私も今までエミリー・サジェ的に、わけのわからぬドッペルゲンガー的現象を何度も経験しているので、全てを医学的に説明出来るとは思っていませんが…。
 
さて、テレビの話に戻ります。彼は頻繁にもう一人の自分を見るという幻覚に苦しんでいましたが、ドッペルゲンガーを見るようになってから3か月ほど経過した頃、激しい頭痛に襲われ、病院へ救急搬送されました。その後、検査で脳腫瘍が見つかり、手術でその腫瘍を摘出したところ、それ以降はドッペルゲンガーを見ることが無くなりました。この患者を診察したチューリッヒ大学病院のピーター・ブルッガー医師によれば、脳腫瘍が出来始めた時期と、ドッペルゲンガーが出現するようになった時期は完全に一致していたのです。この陶芸家は脳腫瘍を切除してからドッペルゲンガーが現れなくなったわけですが、それまでにドッペルゲンガーを目撃したという患者にも脳腫瘍が見られ、その他の患者には腫瘍は見られなかったものの、偏頭痛が基礎疾患として確認されており、偏頭痛が無くなるとドッペルゲンガーが消失するということがわかりました。つまり、ドッペルゲンガーは脳内の異常によって引き起こされていることが判明したのであり、ドッペルゲンガーを見た直後に激しい偏頭痛に襲われたという患者からの報告が示す通り、脳腫瘍によらないドッペルゲンガーは、偏頭痛の前兆現象の一つである、と言えるわけです。ちなみに、脳腫瘍が出来ても幻覚が現れないケースはその腫瘍が出来る位置の如何によるのであり、特に側頭葉と頭頂葉の境界に腫瘍が出来た場合は、幻覚が出現する確率が高くなるようです。
 
しかし、実際のところは視覚野がある後頭葉の異常も幻覚に関わっている可能性もあるでしょうし、後頸部周辺の筋肉が慢性的に収縮し続けることによって後頭葉→頭頂葉→側頭葉の順で血流が低下し、幻覚が現れるのではないかと私は推測しています。また、もう一つのパターンとして、慢性的な顎の異常、その多くがいわゆる顎関節症ですが、精神的なストレスによって歯を強く食いしばるような時間が多かったり、日中に抑圧されたストレスが原因で起こる睡眠時の極度な歯ぎしりが激しく続いたりすると、内・外翼突筋や咬筋、側頭筋が慢性的な異常収縮を余儀なくされ、結果として側頭筋と表裏に位置する側頭葉に異常が出るケースも考えられます。要するに、後頚部から脳内の血流が悪化するか、下顎骨の下部にある側頸部から脳内の血流が悪化するか、あるいは両者の混在型だと思われますが、腫瘍が出来ていない状態での幻覚であれば、当院のような鍼治療で改善させることが可能かもしれません。もちろん、すでに脳に腫瘍があったり、器質的な脳内の異常がみられたり、薬物中毒や精神疾患に起因する幻覚は鍼治療で治すことは出来ません。
 
一般的に、偏頭痛の前兆現象と言えばいわゆる閃輝暗点(眼の前でチカチカ光る小さな点などが見える現象)が有名ですが、脳内または脳外の障害部位やその程度によって、微妙に前兆現象が異なるようです。しかし、視覚に異常が出るという点に関しては一致しており、やはり視覚野がある後頭葉から幻覚に関与する側頭葉までの範囲内で、何らかの異常が起こっていることが推測されます。また、脳内に器質的な異常がみられなくとも、脳外の筋肉が慢性的な異常収縮を起こすことによって脳内外の血流および神経の伝達に変化をもたらし、その結果として幻覚を引き起こす、ということが考えられます。これらのことを踏まえて考えると、軽度の偏頭痛では幻覚は起こり難いと思われ、幻覚が鮮明かつ頻繁に現れるようになってきたら、それは偏頭痛が悪化しているとみて間違いないと思われます。
 
ドッペルゲンガーと偏頭痛の関係を研究している、アーヘン大学のクラウス・ポドル博士(Podoll K , Department of Psychiatry and Psychotherapy, University of Technology Aachen, Germany.)が「Cephalalgia」内で発表した論文「Out-of-body experiences and related phenomena in migraine art(こちらLinkIcon)」によれば、偏頭痛の発生メカニズムは以下の通りです。

1.まず、何らかの原因で後頭葉から前方に向かって神経細胞(ニューロン)の異常な興奮状態が拡がっていく。それに伴って脳内の血流量が一時的に低下する(偏頭痛の前兆現象。この段階で幻覚を見るようだ。脳死状態の患者が臨死体験する過程と似た状態であると思われる)。
2.生体は自ずと低下した脳内の血流量を補おうとするため、急激に脳内の血流量を増加させる。
3.その結果、大量の血液が心臓から脳内に流れ込もうとするため、脳内の血管が異常拡張する(この段階で激しい頭痛が出ると思われる)。
4.異常に拡張した血管はその周囲の神経細胞を圧迫するため、激しい頭痛が発生する。

 

*前兆現象として視覚消失や閃輝暗点が伴う点からも、視覚野が存在する後頭葉の障害が早い段階に存在すると思われます。以下はその順序です。
 
後頚部筋肉群の異常収縮→後頭葉(視覚野)の血流減少→頭頂葉、側頭葉の血流減少→幻覚(神経伝達の異常によるドッペルゲンガー、閃輝暗点)→後頭葉および側頭葉の血流増加による血管の異常拡張→幻覚消失→頭痛発現→一定時間経過後、血流改善によって頭痛が鎮静化

 
死の直前までドッペルゲンガーを見ていたという著名人としてアブラハム・リンカーンと芥川龍之介が知られていますが、結局は彼らも偏頭痛の持ち主だったそうです。実際に、二人とも容貌がよく似ています。とにもかくにも、血管拡張性頭痛はその他の血管収縮型の慢性頭痛とは発生機序が異なるとか、血管を拡張させないようにしなければいけないとか、てんかん発作的に興奮した脳を投薬で鎮静させなければいけないとか、医学的にはあれやこれやと騒がれているわけですが、実際にはその根因は筋肉のコリにあると考えられます。
 
そういえば、アメリカの医療ドラマ「Dr.HOUSE」で、側頭葉病変によって幻覚を見るという患者の話がありました。しかし、実際に側頭葉周辺の血流が悪化したり神経の伝達異常が起っても、過剰な幻覚を見るというケースは稀なようですから、HOUSE医師のような天才肌に出逢わない限り、結局は病院へ行っても、精神科や心療内科へ回され、薬物中毒にされるのがオチかもしれません。