これは院長が鍼灸学生時代に、病理学の授業の課題で学校に提出した小論文モドキです。内容は、実際に院長が幼少期に体験した喘息に基づいて記してあります。大した内容ではありませんが、僅かながらでも喘息患者や医療従事者の参考になればと思い、公開してみました。所詮は受け売り的な内容でしかありませんから、参考程度にご覧下さいませ。ちなみに、当時の担当教員にはユニークな論文だと絶賛されましたが、他の学生と比べての感想でしょうから、その時は何だか日本の鍼灸業界のレベルの低さの一端を垣間見た気がして、少し残念な気持ちになったのでした。
喘息(ぜんそく)
満1歳~6歳ころまで
喘鳴(ゼイゼイ、ヒューヒュー)、呼吸困難(息苦しさ)、咳、痰、胸痛、胸が重い感じなど。
*症状の発現は発作的であり、夜間から早朝にかけて多く発生する。また、季節的変動があり(主に秋)、季節の変わり目に発作がでやすい。
*特定の臭いや煙などの刺激物質、冷気、天候の変化、ストレス、風邪(ウイルス感染)、運動なども発作の誘因となりやすい。
主に聴診による笛声音、喘鳴の有無と気道可逆性試験、肺機能検査による気道閉塞の程度を確認する。また、気道過敏性検査、気道炎症検査、アレルギー検査も行う。
・聴診:笛声音、喘鳴、呼吸数増多の有無。喘鳴においては発生の時間帯や気候の変動も考慮する。
・視診:チアノーゼの有無。
・気道可逆性試験:β-2刺激薬吸入またはステロイド薬内服前後のスパイロメトリー、肺機能検査で気道閉塞における可逆性の確認(薬剤投与後に著しい改善がみられた場合は、喘息と診断する)。
@スパイロメトリー…スパイロメーター(肺活量計)を使い、気道閉塞の程度を調べる。また、治療効果の確認をする。
・メタコリンまたはヒスタミンの吸入:健康人では影響が出ない量の吸入で気道の狭窄が起これば喘息である。
・最大呼気流量の測定:ピークフローメーターで自宅にいる時のピーク値の確認。
@最小値と最大値の開きが30%以上である場合は、中程度から重度の喘息と確定する。
・アレルギー検査(血液検査):あくまで補助診断である。抹消血好酸球の増加、非特異的IgE値の上昇が目安となるが、アレルゲンを特定出来てもそれが喘息の原因であるとは確定出来ない。
・運動誘発性喘息の検査:トレッドミルや自転車エルゴメーターによる運動前後にスパイロメーターで1秒間の努力肺活量を測定する。15%以上の減少がみられる場合は運動誘発性喘息である。
・X線検査:重度の喘息、または腫瘍や肺炎が疑われる時にはX線検査を行う。COPD(慢性閉塞性肺疾患)との鑑別や合併症の有無も調べる。
抗炎症薬の服用により、自然経過で治癒するとの予測。
主に長期管理薬と発作治療薬を併用する。喘息への理解と環境整備、薬物療法が中心となる。
・長期管理薬(コントローラー)→発作を予防(短時間作用性気管支拡張薬)
・発作治療薬(リリーバー)→発作を止める(長時間作用性気管支拡張薬)
@発作治療薬の使用頻度が高いほど重症であるとされる。
@1997年の日本において、短期作動型のβ2刺激薬(ベロテックエロゾル)の乱用による死亡者増加が問題となる。実情は薬剤の副作用が原因ではなく、薬剤に対する過信と誤認が原因であったとされる。β2刺激薬は大発作の際にも一時的に症状が改善するため、病院を受診せず死に至った患者が多かった。
β刺激薬、キサンチン誘導体、抗コリン薬、肥満細胞安定化薬、コルチコステロイド、ロイコトリエン拮抗薬
喘息の原因は不明である。一般的にはアレルゲンが強く関与していると言われているが、実際は大気汚染、ストレス、食事の異常、姿勢の異常、遺伝的素因、精神的素因、自律神経失調、その他の要因も混在していると推察され、未だに根因の特定は困難である。私の場合も例に漏れず原因不明であった。喘息は主にアトピー型と非アトピー型の2つの病型に分類されている。
病理学的な実体は気道の慢性炎症疾患であり、発作時または非発作時に関わらず、常に炎症が存在している状態であるとされている。さらに、気道の炎症が続くことにより、発作がない時でも可逆的に元の状態に戻らない変化(リモデリング)が起こり、慢性化、重症化していくことも解ってきている。他に、非ステロイド系の消炎鎮痛剤の内服や注射によって重篤な発作を起こすアスピリン喘息(成人喘息の約10%)や、ある種の職業性抗原により起こる職業性喘息などがある。どの病型においても、現時点では吸入ステロイドが最も安全かつ有効であるとされる。
世界的には都市部、特に人口密集地での発生が高く、患者は増加傾向にある。2004年時点で全世界の喘息患者は3億人、COPD患者は6億人(全世界で死亡原因の第4位)いるとされ、年間約25万5000人が喘息で死亡しているとされる。日本では2009年時点で300万人以上の喘息患者がいるとされており、10年で半減したものの、現在(2009年)でも年間約3000人が喘息で死亡している。また、日本においては南日本での発生が高く、30年前に比べて患者数は約70%増加している。南日本での増加傾向には、偏西風によって内モンゴルや中国大陸から飛来する黄砂やPM2.5などの大気汚染物質が強く関与していると考えられる。平成5年度の厚生省による調査では、年齢別の喘息患者数は65歳以上の老人と15歳未満の子供に多発している。
小児の約90%は成人までに治癒するが、成人になってから再発することもある。また、小児から成人になるまで喘息を持ち越した場合、本人の喘息に対する自覚や理解が無いと治療や管理が疎かになり、時には死亡(主に窒息死)することもある。実際、小児に比べて成人における死亡率の方が高い。特に、喘息重積発作ではアシドーシスを呈するため、人工呼吸器が必要になることがあり、発作直後に適切な処置がなされなければ、死亡する可能性が高い。喘息によって死亡した患者の約半数においては、重度の発作を軽度であるとして判断を誤り、適切な治療が遅れたことが死因になっているとされる。また、喘息からCOPDに移行したり、併発するケースもみられる。一方、日本におけるCOPDの潜在患者数は500万人以上に上るとされ、死因は第10位となっている。日本における死亡者数は低下傾向にあるものの、患者数は依然増加傾向にある。
現在でも喘息は完治しないという認識が一般的であり、発作を引き起こす要因を突き止め、どう治療するか、またはどう回避するかということが課題になっている。前述した通り、喘息は対応を誤ると死に至る病気であるが、医師とともに治療計画を立て、適切な治療を施せば、かなりの確率でQOLが改善され、健常人と同等の生活を送ることが出来るようになる。気流閉塞が完全に寛解しない喘息患者においては、部分的に可逆性の気流閉塞と気道過敏症がある、慢性気管支炎および肺気腫患者と区別することが困難である。したがって、一般的に寛解がみられない喘息患者は、COPDを併発しているものとして分類される。気流閉塞を伴う慢性気管支炎と肺気腫は通常同時に起こるが、喘息が併発する患者もいる。煙草の副流煙など何らかの慢性的な外的刺激に曝されている喘息患者においては、慢性気管支炎の特有の症状である慢性湿性咳が発現することがある。米国においては、そのような患者は喘息性気管支炎または喘息性COPDを有するとされる。
・片親が喘息の場合→リスクは25%UP
・両親が喘息の場合→リスクは50%UP
*喘息患者が妊娠した場合、その内の25%は喘息の症状が軽減するが、25%は悪化する。しかし、50%には何ら変化はみられない。
*以下の場合も同様にリスクは上がる。
①母親が妊娠中に喫煙していた場合。
②幼少期、高濃度のアレルゲンに曝されていた場合。
③日常の精神的または肉体的ストレスが強い場合。
④その他、喫煙、環境汚染、ウイルス、気象の変化などによって発症リスクが高まったり、症状が憎悪する。
喘息は慢性疾患の中で最も欠勤・欠席率が高い疾患とされており、患者本人や家族の苦痛のみならず、社会的・経済的損失が大きな問題となっている。日本では1980年代後半から大気汚染が悪化し、多くの職業人が喘息をはじめとする呼吸器系疾患に見舞われた。また、国が公害健康被害補償法の新規認定を打ち切った1988年以降は、喘息などの疾患を発症しても何らの補償も受けることが出来ない未救済(未認定)患者が急増した。高額な医療費負担で満足な治療を受けることが出来ず、病状は悪化の一途を辿り、入退院の繰り返しの中で職を失い、生活保護に頼らざるを得ない深刻な状況に追い込まれる患者もいた。2004年度の調査では、将来的な喘息による経済的損失は、結核とHIV(AIDS)による損失を合計した値を上回るであろうと予測されている。
日本における喘息患者のQOLは依然として低い。1998年から2001年にかけて世界29カ国で実施されたAIR調査の結果によると、日本では成人の約30%、子供の約53%が喘息を理由に欠勤・欠席した経験があるという実態が明らかになった。また、西欧7カ国(仏、英、蘭、西、伊、独、典)の結果と比較し、成人で1.8倍、子供で1.2倍と、日本の経験率の方が高いこともわかった。スウェーデン(典)は喘息管理において最も成功している国の一つであるが、日本と比較すると成人で2.3倍、子供で1.6倍と日本の方が経験率がより高かった。さらに、急な受診患者数においても、西欧7カ国と比較して日本の方が多く、日常生活における喘息の管理が徹底されていないことも明らかになった。
これまでに様々な公害が社会的に問題となってきたが、主に喘息患者増加の発端となった公害問題に関する事例として、以下に4つを挙げる。
①ロンドンスモッグ:1952年にロンドンで発生した、史上最悪規模の大気汚染。発生したスモッグはすぐ前方が見えないほど濃いものであった。特にロンドン東部の工業・港湾地帯においては、自分の足元も見えないほどの濃さであったと言われている。また、市内の建物内にまでスモッグが侵入し、映画館では「スクリーンがみえない」との理由で上映が中止された。このスモッグが原因になり、数週間で約12000人が死亡した。
②四日市喘息:三重県四日市市で1960年から1972年にかけて発生した、大気汚染による集団喘息障害である。高度成長期における典型的な公害の一つで、日本初の大気汚染訴訟が起こされた。四大公害病の一つ。
③環八喘息:羽田空港から北区までを縦断する環状八号線付近で発生している喘息の俗称である。環状八号線に沿って夏に発生する「環八雲」により、空気中のSPM(浮遊粒子状物質)が異常に増加し、喘息患者が多発した。
④東京大気汚染公害裁判:1996年、東京で大気汚染公害被害者(喘息、慢性気管支炎、肺気腫の患者)が大気汚染をなくすことを目的に、損害賠償と被害者救済を求めて起こした裁判である。原告団は633名で、国、東京都、首都高速道路公団、トヨタ自動車をはじめとするディーゼル自動車メーカー(トヨタ、日産、日産ディーゼル、三菱、マツダ、いすゞ、日野)を相手取り、11年間の長期に渡ってその法的責任を追及した。2007年には和解が成立し、都内に居住する喘息患者に対して、その医療費の個人負担分を全額助成することが決定した。助成のための財源は東京都のほか、国と被告メーカー各社、首都高速道路会社がそれぞれ公害発生責任者として拠出することになった。だが、慢性気管支炎と肺気腫は対象外であるということが問題点として残された。
*2010年以降、内モンゴル自治区や中国大陸から日本へ飛来する大気汚染物質は年々増加の一途を辿っている。特にPM2.5の増加は凄まじく、関東圏においても目にみえるほどの毒霧が確認されているが、未だに国をはじめ多くの自治体が十分な対策に乗り出していない。したがって、手遅れになる前に個々人で何らかの自主的な対策を実施してゆかなければ、今後日本において、呼吸器系疾患はもちろん、アレルギー疾患や癌患者も激増する可能性が高い。
気道過敏症の亢進が主となる。主な変化を以下に3つ挙げる。
①気管支平滑筋の収縮(気道の収縮)
②気管支粘膜の浮腫
③分泌物の増加(痰の増加)
これまでは発作中のみ炎症が起こっていると考えられていたが、非発作時においても炎症が継続していることがわかった。その結果、それまでの発作性疾患という考え方が改められ、気管支の慢性疾患であるとの認識が強まってきた。したがって、現在の治療は発作の原因となる抗原からの回避と、気管支の慢性炎症の抑制とに主眼が置かれ始めている。しかし、以上の事は成人の喘息における事実であり、小児が成長とともに喘息から解放されるメカニズムにおいては未だ不明な点が多い。成人および小児の治療における共通の見解は、出来るだけ発作を起こさせないようにすること、つまりは慢性的な気管支の炎症が悪化する回数を減らしてゆくことが重要である、ということである。小児期に慢性的な炎症が度々起これば、気道の過敏性はさらなる高まりをみせ、成人になっても喘息を持ち越すことになりかねない。したがって、日常での十二分な発作の管理が特に重要であるとされる。
気管支の表面に存在するコリン作動性受容体、ペプチド作動性受容体が異常に過敏になり、平滑筋の痙攣を誘発する。その結果、常に平滑筋の収縮が起こるようになり、気管支の狭窄を引き起こす。したがって、喘息患者の気管支壁には慢性的な平滑筋の肥大、好酸球の浸潤がみられ、空気の流入が困難となる。これには、平滑筋の収縮、粘液の分泌、ヒスタミンやロイコトリエンの放出を行う肥満細胞が大きく影響していると考えられている。
まず、喘息患者の手相の特徴としては、フレッド・ゲッティングが言う「感覚型」、キロが言う「尖頭型」、「円錐型」などの縦長の手相が多くみられる。手のひらをパッと観た時の印象では細かい支線が多く、神経の過敏さを伺わせる手相である。
爪が長く、爪の先端がやや孤を描いて落ち込んでいると、喉の弱さを暗示する。また、肺病に罹りやすい爪は薄く、柔らかく、先端が尖っていることが多い。もし、この種の爪に幾条もの縦線が現れたり、血色が悪くなったりすると、ついにはその病で倒れることを暗示する。総じて、爪は短か過ぎても長過ぎても先天的な体質の脆弱さを示し、爪の表面の変化によって、病の兆しを読み取ることが出来る。喘息や咽頭結核に特有な爪は、ホタテの貝殻を伏せたような形の爪で、指頭に向かうに従って広がりをみせる爪であるとも言われている。
また、生命線上のスプリッドライン(細長い島紋)はアイランド(短い島紋)と同様に、呼吸器の疾患を予兆させるものであると同時に、ヘビースモーカーにも観られる徴候で、呼吸器系の癌の発生をも暗示する。これは自分が喫煙していなくても両親のどちらかが吸っていたり、沢山吸う人がいる環境に曝露されていれば、現れることがある。呼吸器系の疾患でもかなり進行している場合は、金星丘から木星丘にかけて影響線が出ており、木星丘上の終点にはアイランド出ていることがある。また、喘息では感情線と知能線が近接しており、方庭が狭くなっている。さらに、火星丘に変化がある場合は咽頭または気管支に炎症があると判断する。火星丘にシリーズ(細かい縦線)がある場合は咽頭炎、逆に横線が数本出ている場合は気管支炎と観ることもある。
基本的に、呼吸器系の疾患においては、生命線・感情線・知能線の起点の乱れ、長い大きな爪、金星丘の静脈の怒張(宿便の停滞も暗示する)が特徴となる。もし、左手がそうだったとしても、右手が健全であれば重症であっても治癒する可能性が高い。小児喘息は生命線の起点が乱れた人に多い。また、生命線上に現れるアイランドは慢性の疾患をも暗示するが、健康線上にもアイランドがある場合は呼吸器系を患っている可能性が高い。生命線上のアイランドは大きいほど、長期わたって患うことを暗示する。アイランドの位置は流年法によって罹患時期を示すという説もあるが、そうとも限らない。ちなみに、病が回復に向かうとアイランドは段々と薄くなることがある。
小指が曲がっている場合、曲がっている方の胸椎か腰椎に異常があったり、肋膜に異常があったり、肺活量が小さかったりする。生命線上のアイランドは左手のみに現れているのであれば、遺伝的に病気になりやすい体質を受け継いでいるだけであるが、一応は病気にならないように養生しておくのが賢明である。両手の生命線上にアイランドがある場合はすでに病気に罹っていると観る。それは主に癌や肺結核などの呼吸器系疾患を暗示する。生命線の起点部分のアイランドは喉頭癌、中点は肺癌、乳癌、胃癌、脊椎の病気を暗示し、終点は大腸癌や前立腺癌、子宮癌を暗示する。また、金星丘に発し、生命線を横切って感情線で止まる障害線も喘息の一つの相であるとも言われる。
色白または青白い顔色で、顴骨(=頬骨)が突出している場合は、呼吸器系に何らかの異常を抱えていることが多い。また、呼吸器系が弱いと頭部が小さいとか、卵型の顔が多いなどと論じている者もいるが、そのような事例は極めて少ないように思える。クレッチマーが言う「分裂気質」は呼吸器系を病んでいる者に多くみられる形質である。つまり、痩せ型で、顔は細面、顴骨が目立ち、頬の肉付きが悪いと呼吸器系疾患を抱えている場合が多い。口が大きいのは大食漢の相であるが、喘息患者は実際にこの相を備えていることが多く、食が乱れがちである。さらに、食の異常が常態化している者は、眼球が内側または外側に偏っていることもある。ちなみに、常に右肩が上がっている者は胃液の分泌が亢進しがちで、例外なく大食漢である。この場合、右肩が常に凝っているため、バランスを取ろうとして右足に重心が偏ってしまう。ゆえに、脛骨と腓骨が荷重によって開き気味になったり、筋肉が硬化したり、むくんだりしているため、右足首が太く、可動性が悪くなっている(右足首が回りにくい)。
右肩の凝りは上半身の力みを伴うことがほとんどで、大食漢はいわば上実下虚の状態を呈していることが多い。つまり、喘息患者は上半身に過緊張がみられることが多いのであるが、それは日常的に精神的なストレスを溜め込んでいることを暗示している。人は怒ったり、緊張したり、強いストレスを感じると、呼吸が浅くなって、肩に力が入り、重心が上半身へと移動する。このような状態が長く続くと、主に頸部と脊柱起立筋上部、肋間部の筋肉が慢性的な萎縮を抱え、ついには自律神経の安定を欠き、自律神経が支配する呼吸器に異常をきたすこととなる。自律神経は頸部から仙骨にかけて神経根が存在するが、持続的な過緊張によって交感神経が優位になりがちであれば、いずれは交感神経という名のスイッチがONになったまま、体がしっかりと休息出来ない状況に陥るようになる。そして、負荷がかかりすぎた交感神経はその機能がいわばオーバーヒートしてしまい、副交感神経が優位に成りすぎて、喘息が発症する。つまり、交感神経が機能低下することによって、結果的に副交感神経刺激反応である治癒反射が過剰になり、ささいな抗原に反応するようになって、アレルギー症状が過剰に出ることになる。よって、副交感神経系の活動を調節するアセチルコリン受容体が過敏になり、交感神経系では、活動を調節するβ2‐アドレナリン受容体の機能が逆に鈍化するようになる。
喘息患者の胸郭は通常よりも拡がっていることが多く、猫背の者が多い。また、腰に力がなく、骨盤が開き気味である。逆に姿勢が後傾している者も存在するが、大半は恥骨と顎が前に出た前傾であり、どちらにしても姿勢が悪い。ちなみに、毛深い者や産毛が多い者も呼吸器系が弱い。絶えず上半身に緊張がある者は、自ずと自律神経系に安定を欠いており、精神的に不安定であるため、すぐにキレたり、ヒステリーを起こしやすく、場合によっては喘息の重積発作が起こる。
胃を使い過ぎている者や過食癖がある者は、慢性的に胸椎5~7番左側の筋肉が硬化または隆起していて、特に胸椎5番の棘突起が突出していたり、硬化や圧痛がみられることが多い。また、右肩が凝っていると筋肉の張力で右肩が上がるため、胃が拡張しやすくなり、過食傾向になる。手が冷たいのは胃が悪い証拠だという話があるが、これは自律神経系の不安定さを暗示している。頭皮が弛んでいると胃も弛んでいて食欲不振になる、という話もある。脳が過剰に興奮したり、手の指を使い過ぎると首が硬くなって迷走神経が刺激され、胃酸過多、胃炎、過食の原因となる。首が緊張していて、猫背で、右肩が上がった体型で過食している場合は、欲求不満や脳の疲れが根因にあることが多い。なぜなら、胃を動かすことで副交感神経を刺激し、心身のイライラを収めようと、無意識に過食している可能性が高いからである。
人は空腹であると交感神経が優位になり、上半身が緊張してイライラするものであるが、満腹になれば副交感神経が優位になり、スッと肩の力が抜けて気持ちが楽になるものである。ゆえに、何らかの鬱憤を抱えた、いわば交感神経型の人間というものは、大食することで副交感神経を優位にさせ、無意識のうちに心身をリラックスさせようともがいていることが多い。ちなみに、便秘は体外に出るべきガスを体内へ留めてしまうため、行き場を失ったガスは再び血中へ吸収されるか、腸内を逆走してゲップとなって体外へ排出される。肉食は腸内での悪玉菌を増やし、いわば毒ガスを大量に発生させる。ゆえに、便秘も肉食もゲップ発生の原因となるが、ゲップは体外へ出る過程で喉を刺激するため、咳や喘息の原因ともなり得る。
喘息患者は目尻が釣り上がることが多いが、アトピー性皮膚炎の患者も同様の目を呈していることが多い。眼球は外側寄りになると体液が酸性傾向を、内側寄りになるとアルカリ性傾向を示すという話があるが、基本的に食の異常がある者は、必ず目に異常がある。脳や自律神経が安定している者は、眼球がしっかりと中心に位置し、その目つきも落ち着いている。逆に、不安定な者は必ず目に異常が出ている。狂人はいくらでも食べたがるものであるが、過食は精神の均衡を狂わせ、特に目において病的な異常を顕在化させる。また、大食する者は胸郭を拡げるような形で寝ることがあるが、これは使い過ぎた胃を休め、胃熱を放散させようとする生理的な姿勢である。
成人の喘息患者は例外がないと言えるほどに過食の傾向にある、ということは前項で述べた。喘息とアトピー性皮膚炎は併発することが多いが、アトピー性皮膚炎患者においても、同様に過食傾向がみられる。喘息においては過食した後に発作が出やすいが、これは副交感神経が異常に刺激されることが主因である。過食、肉食、澱粉食、怒り、イライラ、前傾姿勢、胸式呼吸、浅い呼吸は体液を酸性に傾け、症状を悪化させる。逆に、少食、菜食、笑い、喜び、後屈姿勢(反り過ぎは×)、腹式呼吸、深い呼吸は体液をアルカリ性に傾け、症状を好転させる。
難治の喘息は断食で根治すると言われているが、断食は失敗すると死ぬ可能性もあるため、まずは腹八分目までに減食したり、間食を減らすことから試してみるのが良い。喘息患者は往々にして一日の食事回数・食事量が多いため、一日二食または三食を基本にして、一日に摂取する総食事量が一定になるように心がけることが重要である。
また、定期的な温冷浴を実行していると、自律神経が自ずと均衡を取り戻そうとするため、喘息が治りやすくなる。また、適度な有酸素運動、特にウォーキングは全身の血流を改善し、筋肉に柔軟性を与え、自律神経の安定を促すため、間接的な喘息の治療となり得る。定期的な有酸素運動は血中における溶存酸素量を増大させるため、相対的に呼吸が深まり、代謝や免疫、深部体温が向上し、身体機能は全般的にスケールアップして、より良い状態が実現出来るようになる。それゆえ、喘息が改善するのである。過剰な厚着や安静は喘息を悪化させる可能性があるため、寒暖や静動のバランスについてはよく考えなければならない。
幼少期から成人まで喘息を持ち越す患者には、幼児期に十分な愛情を受けることが出来なかったことが原因で、大人になっても幼児性が残っているケースが多い。つまり、潜在意識下に潜む愛情枯渇からの欲求不満や、他人から注目され満たされたいといった自己合理化が、喘息発症の根底にあることが多い。また、喘息患者が疾病利得や疾病逃避といった現実逃避気質や、ヒステリー気質を主な基盤として発症している場合、その根因である欲求不満が解消されない限り、喘息という病魔から逃れることは非常に困難である。さらに、「自分の喘息は治らない。」とか「低気圧が来ると必ず発作が起こる。」などの自己暗示によって喘息を激症化させているケースもあり、この場合は潜在意識に働きかけるような催眠療法などを施すと、たちまちにして治ってしまうこともある。
家庭内や親戚、友人に関する気苦労や、学校や職場でのストレスが環境因子として原因になっている場合は、その環境から離れることによって簡単に根治することもよくある。全般的に、喘息患者は思考や行動が過剰に偏ることによって発症するケースが多いため、その潜在意識下に見え隠れする欲求(野口晴哉はこれを「集中欲求」と言った)を探し出し、鬱滞したエネルギーの発散方法やその方向性を修正することが、治療における最優先事項とすべきであるが、その実際においては熟練したテクニックが要求されるため、容易には用い難い。
体癖(たいへき)とは、昭和期に威光を放っていた野口晴哉が生み出した造語である。体癖について簡潔に説明すれば、体構造の運動習性から個人の習性や性質などを説いた野口独自の理論である。人間は刺激を受けると何らかの無意識の反応を示すが、その反応が体構造の差によって現れる運動習性が異なる、という理論である。
人は鬱憤を溜め込んでいると、それを何らかの方法で発散しようとするが、その発散の習性は各々で異なる。例えば、怒鳴る人もいれば、愚痴を言い出す人もいる。また、少し歩き回る人もいれば、茶碗を割る人もいる。その日常的な発散方法には個々人で一定の傾向があり、そうなるのはそういう方向に動きやすい体構造をしているからであり、その為に発散の手段に癖が現れるのである、と野口は論じた。
例えば、子供が親の注意を得たいがために寝小便をしたり、ガラスを割ったり、転んで怪我をしてみたりするのは、野口の言を借りれば集中欲求(自分に注目してもらいたいという欲求)であると言えるが、大人にみられる喘息や頭痛、心悸亢進、ヒステリーの類も子供と同様に、自分の存在を主張せんがための意図的かつ無意識的な発作であると捉えることが出来るのである。ちなみに、野口は「胎便の排泄」が喘息やアトピー性皮膚炎発症の原因になり得ることを指摘した。つまり、胎便とは赤ん坊が母体内にいた時に溜めていた便のことを言うが、出産後に胎便をうまく排泄させてやらず腸内に残してしまうと、後々喘息やアトピー性皮膚炎になる可能性が高いと説いたのである。特に、呼吸器や腎臓に異常がある場合は、より注意して排泄させることが重要であるとした。
野口晴哉はこうした傾向が強い体構造を持つ人間を「六種体癖(十二種ある体癖の一つ)」として位置づけた。六種体癖は簡単に言うと、体の重心が前後に偏りやすい人のことで、主な特徴として呼吸器が過敏で弱い。また、常に肩に力が入っており、肩に力が入れば入るほど陰気になり、そんな己を鼓舞するためか、熱のある言葉を吐くようになる。つまり、六種体癖である人は、こちらが赤面してしまうようなことを無意識的にパッと口にしてしまう傾向にある。また、左右の重心が前、特に内へ偏る時は積極的に動くようになるが、本来は理想家であるため、座して熱い言葉を吐くだけで実際には行動しないことが多い。しかし、いざ行動するとなると後先考えずに行動を起こすため、その行動が何らかの理由によって抑えられると、ヒステリー的な分散(≒発散)様式をとることになる。ちなみに、野口はヒステリー的な症状が出ると鳩尾の左に「玉」が出来ると言い、それを「下ろす」と症状が消えると言った。六種体癖は食いしん坊でもあり、特に栄養が欠けることへの不安から食べるという行為に駆られる、という傾向がある。つまり、美味い不味いに関わらず、セッセと胃袋に食い物を詰め込むのである。喘息を含め、呼吸器疾患を抱える者にはこのような六種体癖型の大食いが多い。
また、六種体癖は己の欲求を果たすために、あるいはそう見られたいがために、自分で自分の体を壊していくという傾向が強くみられる。しかし、本人は意識して転んだり、怪我をしたり、病気になったりするのではなく、あくまでも無意識的に行動してしまうのである。潜在的な劣等感や欲求不満があったとしても、意識している間は行動に結びつかないが、意識で欲しくなくなると行動してしまう傾向にある、と言える。例えば、ある人が好きになったら、その人を呼び寄せるために病気になったり、怪我をしたりするようなことを無意識的に実行してしまうのである。これは、満たされない潜在意識が何らかの症状、または行動を顕在化させ、心底にある欲求を満たそうとする補完的な生理現象である。したがって、現代における喘息というものは他の発作的病態も含めて、裏を返せば欲求不満が意識の根底にあることが多く、その満たされぬ心の隙間を埋めてゆくことが最善の治療となるケースが大半にあると推察される。生理的に起こった病気よりも、心理的に起こった病気の方が死に至る度合いが強い、と野口晴哉は言った。また、その中でも特に六種体癖においてその傾向が著しいとも説いた。彼らが何を欲してそのような病態を曝しているのかを理解し、その欲求を満たすように関心を振ってやれば簡単に治ってしまうと言えるが、六種体癖特有の衝動性は同時に自滅の危険性をも内包している、ということを理解しておかねばなるまい。
《参考HP》
①メルクマニュアル日本語版
②財団法人日本アレルギー協会
③独立行政法人環境再生保全機構
④東京大気汚染公害裁判
《参考文献》
①「野口晴哉口述 整体操法中等講座」(社団法人整体協会)
②「整体法の基礎」野口晴哉(全生社)
③「体癖」野口晴哉(全生社)
④「育児の本」野口晴哉(全生社)
⑤「誕生前後の生活」野口晴哉(全生社)
⑥「子育ての記」野口昭子(全生社)
⑦「人相の見方」北村謙次朗(文研出版)
⑧「人相活断大事典」大熊光山(香草社)
⑨「やさしい人相の見方」佐藤六龍(緑樹出版)
⑩「人相手相家相の見方」増田一斎(有紀書房)
⑪「手相の辞典」沢井民三(白陽社)